ブリヂストン美術館「カイユボット展-都市の印象派」(10/10〜12/29)のオープンが近づいてきました。先日、日本橋付近を歩いていたら、ブリヂストン美術館の外側の壁にカイユボット展のロゴが大きく展示されていました。いよいよ!
今回の展覧会には、この絵も出展される予定です。
《ペリソワール》1877年ワシントンナショナルギャラリー蔵 ©National Gallery of Art, Washington, Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon, 1985.64.6
パリ郊外、イエール川の風景です。自然に囲まれてみずみずしい水面やあふれる光を感じさせる青や緑色の中に、ボートの黄色い櫂が鮮やかに引き立っています。船の先端が切れていたり、右側の櫂が途中までしか入っていない切り取り方がとても写真的ですね。また、カイユボットが他のボートの上に立って広角レンズで見下ろして撮影したかのような構図が面白いです。実物を見るのがとても楽しみな作品の一つ。
カイユボットが描いたパリの町や室内のシーンは、やはり建造物の多い都市のせいか、グレーなどの落ち着いたトーンが印象に残ります。そこに赤や青を効果的に使っていて。椅子の背もたれやカーペットなどの赤に、私は密かに「カイユボットレッド」と名付けて気に入っているのですが。
そんなパリの絵のトーンに比べて、《ペリソワール》は、屋外ならではの光を表すような明るい色彩が目立ちます。カイユボットは郊外の風景もひんぱんに描きました。その多くの題材はカイユボット家の夏の別荘があった、パリ郊外のイエールです。現在はイエール市の公園になっているその別荘を訪問してきました。
カイユボットの夏の別荘。1860年にカイユボットの父親が購入したそうです。側を流れるイエール川約1km分を含め、敷地丸ごとカイユボット家の所有地でした。1973年からイエール市が所有し、現在は子供連れの親子やジョギングを楽しむ人などが訪れる、緑豊かでのんびりとした美しい公園です。
イエール市の遺産管理部門資料室に勤務しているジル・ボーモンさんにお会いして話を聞きました。
別荘の前で、カイユボットの家族を描いた作品を持つジルさん。絵の中の女性たちは、後ろに写っている建物の付近に座っていたようです。
室内には、カイユボットのオリジナル作品の原寸大のコピー絵画が展示されていました。この絵についてジルさんは「指の表情などが繊細に描かれている。カイユボットの絵は一瞬をとらえたような作品が多い気がします」と語っていました。「モネやルノワールよりも、彼はそういう点をよく観察していたと思います」とのこと。
ジルさんによると、2014年、ここでカイユボット展が開催される予定で、オリジナルの作品が展示されるそうです。「そのうち、イエールといえばカイユボットと思ってもらえるようになりますよ」と嬉しそうでした。
公園では、カイユボットが描いた当時のたたずまいを残す工夫をしているようです。
こんな感じに。
「カメラを持って歩いたかのように」
ジルさんによると、カイユボットがイエールを描いた作品は85点あるそうです。「カイユボットは、敷地内をカメラを持って歩いたかのように、そこらじゅうを描いているんですね」と。そのスポットを一つ一つ探しながら散策するときっと楽しいだろうなあ。
そして、イエール川を描いた作品は25点あるそうです。冒頭の絵《ペリソワール》もその一つ。
現在のイエール川は、絵から想像していたよりも川幅が狭かったです。でも緑豊かなみずみずしさは当時のままですね。
カイユボットは敷地内の菜園も描きました。
《イエールの菜園》1877年、個人蔵 ©Private Collection
この菜園は今も使われていて、花や野菜、ハーブなどが栽培されています。
ガラスのベルのようなものは、苗を保温するためのもの。19世紀当時から今でも使われているんですね。
カイユボットの家族は夏にこの別荘を訪れていましたが、1874年に父親が、1878年に母親が亡くなってカイユボット兄弟に遺産が入ると、1879年にこの別荘を売りました。そして、同じくパリ郊外のプティ・ジュヌビリエに家を買ってそこに住んだのでした。
☆イエールまでのアクセスは、パリからPER(高速郊外鉄道)のD線に乗り、イエール(Yerres)駅まで小一時間。
Propriété Caillebotte 公園のサイト(フランス語)
住所:8 Rue de Concy, Yerrres
入園料:無料
予約すればガイドツアーもあり
photos: ©Mayumi Ishii