これはギュスターヴ・カイユボットの弟、マルシャルがパリで撮影したギュスターヴの写真です。
《ギュスターヴと犬のべルジェール、カルーゼル広場》1892年2月 マルシャル・カイユボット ©Private Collection
この写真、なんだかとても気に入っています。広いカルーゼル広場に立つカイユボットと犬。とすると、後ろの建物はルーブル美術館ですね。遠近感のある考えられた構図の中、石畳の上のカイユボットと犬が引き立ちます。
ダンディなたたずまいのカイユボットが、カメラではなく愛犬(?)ベルジェールにふっと意識を向けた時に撮影したようなさりげない感じが素敵です。また、散歩している風の少し動きのある姿勢も自然。これが直立不動でカメラ視線だと、まただいぶ違う印象になりますね。別カットも撮ったのかな?マルシャルがどんなカメラを使っていたのか興味大です。
犬の名前もきちんと記されているところに、彼と関係の近い弟が撮影した感がしのばれるような?石畳の感じがなんとなく、カイユボットの絵画《パリの通り、雨》の石畳を思い起こさせます。
現在のカルーゼル広場はこんな感じ。
© Mayumi Ishii
後ろの建物はルーブル美術館です。19世紀の当時は噴水もピラミッドもありませんでしたが、カイユボット兄弟はこの界隈を歩いていたのですね。
カイユボットには弟が二人いました。その一人ルネは、カイユボットの作品《昼食》に描かれています。しかし、20代の若さで亡くなってしまいました。もう一人の弟、マルシャル(1853-1910)は末っ子で、カイユボットの《ピアノを弾く若い男》などのモデルとして描かれています。
マルシャルは音楽家、切手収集家で、また写真家でもありました。カイユボットと仲が良く、パリで一緒に住んでいた時期もあります。兄弟で共通の趣味を持ち、切手収集やヨットも二人の楽しみだったようです。アート活動としては、カイユボットは絵画、マルシャルは写真で、変わりゆくパリの姿をとらえました。二人が同じような場所を題材にした作品もあります。また、マルシャルも印象派の画家達と交流があり、ルノワールがマルシャルの娘を描いた絵画が残っています。
カイユボットがマルシャルを描いた一方、マルシャルも上の写真のように、カイユボットのポートレート写真をいろいろ撮りました。2011年にはパリのジャックマール=アンドレ美術館で「カイユボット兄弟 画家と写真家展」が開催され、カイユボットの絵画とマルシャルの写真が展示されたそうですよ。
今回のブリヂストン美術館の「カイユボット展」にはマルシャルの写真作品も約80点展示される予定なので、楽しみです!