ブリヂストン美術館 カイユボット展ブログ

~写真家Mの視点によるカイユボットの魅力~

いよいよオープン!都市の印象派 カイユボット展

「カイユボット展ー都市の印象派」が今日10/10いよいよオープンです!

 

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 一足早く展覧会の内覧会と開会式に行ってきました。

 

開会式ではなんと、カイユボットの弟マルシャルのひ孫にあたるドミニック・シャルドー氏が来日してゲストに登場!挨拶のスピーチをしていました。今回、マルシャルの写真作品も多数展示されています。シャルドー氏は、ブリヂストン美術館からカイユボット展の企画の話を聞いた時、大変に重要な展覧会になると思い、協力させていただくことにした、と語っていました。

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スピーチ中のシャルドー氏

 

今回のカイユボット展には、カイユボットの絵画が63点、弟マルシャルの写真が100点展示されています。その中にはパリ印象派展に出品した作品も12点あり、一堂に鑑賞できる貴重な機会です。

 

展示会場へいざ。

会場に入って、真っ先に目にするのは彼自身の自画像です。

「カイユボットさん、とうとうお会いできましたね」と思わずあいさつしたい気持ちになったと同時に、素敵な順番の展示の仕方だと思いました。

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カイユボットの代表作の一つ《ヨーロッパ橋》は125 x 180cmと大きいです。見応え十分。その二つ左にあるのは《ヨーロッパ橋にて》。同じ場所を違う風に切り取って描いた作品。学芸課長の新畑さんによると《ヨーロッパ橋にて》の展示は11/10までなので、この2点が並んでいる貴重なところをご覧になりたい方は、それまでにぜひご来場をおすすめ。

 

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前回のブログで紹介したイエールで描いた作品のセクション。《ペリソワール》も《シルクハットの漕手》も。

 

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さりげなく置かれたピアノはなんと!

 

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《ピアノを弾く若い男》に描かれているピアノと同じモデルなのでした。展覧会のために取り寄せたこだわりに感嘆しました。ピアノの質感が絵と同じ。お見逃しなく!

 

カイユボットの弟、マルシャルの写真作品も素敵なんです。カイユボットの絵画との対比もあったりして、いろいろ興味深いです。

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そしてこんな展示も。

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カイユボットの家、作品を描いた場所など、パリでゆかりのある場所を地図と絡めて見られるという楽しい試み。

 

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「室内、肖像画」のセクション。カイユボットの代表作ずらりとたっぷり鑑賞できます。

 

会場は6つのセクションに分かれていて、とても見やすかったです。内容についてまたブログでもご紹介しますが、ぜひ京橋に行って、実物の作品にお会い下さいね。

 

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photos: ©Mayumi Ishii

イエールのカイユボット

ブリヂストン美術館「カイユボット展-都市の印象派」(10/10〜12/29)のオープンが近づいてきました。先日、日本橋付近を歩いていたら、ブリヂストン美術館の外側の壁にカイユボット展のロゴが大きく展示されていました。いよいよ!

 

今回の展覧会には、この絵も出展される予定です。

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《ペリソワール》1877年ワシントンナショナルギャラリー蔵 ©National Gallery of Art, Washington, Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon, 1985.64.6

 

パリ郊外、イエール川の風景です。自然に囲まれてみずみずしい水面やあふれる光を感じさせる青や緑色の中に、ボートの黄色い櫂が鮮やかに引き立っています。船の先端が切れていたり、右側の櫂が途中までしか入っていない切り取り方がとても写真的ですね。また、カイユボットが他のボートの上に立って広角レンズで見下ろして撮影したかのような構図が面白いです。実物を見るのがとても楽しみな作品の一つ。

 

カイユボットが描いたパリの町や室内のシーンは、やはり建造物の多い都市のせいか、グレーなどの落ち着いたトーンが印象に残ります。そこに赤や青を効果的に使っていて。椅子の背もたれやカーペットなどの赤に、私は密かに「カイユボットレッド」と名付けて気に入っているのですが。

  

そんなパリの絵のトーンに比べて、《ペリソワール》は、屋外ならではの光を表すような明るい色彩が目立ちます。カイユボットは郊外の風景もひんぱんに描きました。その多くの題材はカイユボット家の夏の別荘があった、パリ郊外のイエールです。現在はイエール市の公園になっているその別荘を訪問してきました。

 

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カイユボットの夏の別荘。1860年にカイユボットの父親が購入したそうです。側を流れるイエール川約1km分を含め、敷地丸ごとカイユボット家の所有地でした。1973年からイエール市が所有し、現在は子供連れの親子やジョギングを楽しむ人などが訪れる、緑豊かでのんびりとした美しい公園です。

 

イエール市の遺産管理部門資料室に勤務しているジル・ボーモンさんにお会いして話を聞きました。

 

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別荘の前で、カイユボットの家族を描いた作品を持つジルさん。絵の中の女性たちは、後ろに写っている建物の付近に座っていたようです。

 

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室内には、カイユボットのオリジナル作品の原寸大のコピー絵画が展示されていました。この絵についてジルさんは「指の表情などが繊細に描かれている。カイユボットの絵は一瞬をとらえたような作品が多い気がします」と語っていました。「モネやルノワールよりも、彼はそういう点をよく観察していたと思います」とのこと。

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 ジルさんによると、2014年、ここでカイユボット展が開催される予定で、オリジナルの作品が展示されるそうです。「そのうち、イエールといえばカイユボットと思ってもらえるようになりますよ」と嬉しそうでした。

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 公園では、カイユボットが描いた当時のたたずまいを残す工夫をしているようです。

 

こんな感じに。

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「カメラを持って歩いたかのように」

 

 ジルさんによると、カイユボットがイエールを描いた作品は85点あるそうです。「カイユボットは、敷地内をカメラを持って歩いたかのように、そこらじゅうを描いているんですね」と。そのスポットを一つ一つ探しながら散策するときっと楽しいだろうなあ。

 

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そして、イエール川を描いた作品は25点あるそうです。冒頭の絵《ペリソワール》もその一つ。

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現在のイエール川は、絵から想像していたよりも川幅が狭かったです。でも緑豊かなみずみずしさは当時のままですね。

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カイユボットは敷地内の菜園も描きました。

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《イエールの菜園》1877年、個人蔵 ©Private Collection

 

この菜園は今も使われていて、花や野菜、ハーブなどが栽培されています。

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ガラスのベルのようなものは、苗を保温するためのもの。19世紀当時から今でも使われているんですね。

 カイユボットの家族は夏にこの別荘を訪れていましたが、1874年に父親が、1878年に母親が亡くなってカイユボット兄弟に遺産が入ると、1879年にこの別荘を売りました。そして、同じくパリ郊外のプティ・ジュヌビリエに家を買ってそこに住んだのでした。

 

☆イエールまでのアクセスは、パリからPER(高速郊外鉄道)のD線に乗り、イエール(Yerres)駅まで小一時間。

Propriété Caillebotte 公園のサイト(フランス語)

住所:8 Rue de Concy, Yerrres

入園料:無料

予約すればガイドツアーもあり

カイユボット公園(Google map)

 

photos: ©Mayumi Ishii

 

 

芸術新潮と美術手帖に掲載されています。

 

10月に入り、「カイユボット展-都市の印象派(10/10〜)がいよいよ近づいてきましたね。

 カイユボットの特集を掲載している雑誌がさらに増えたのでお知らせです。

 

芸術新潮』2013年10月号

印象派を支えた画家 カイユボットを知っていますか?」

 

月刊『美術手帖』2013年10月号 

「都市の印象派 カイユボット ゆかりのパリを訪ねる」

 

美術ファンの方には、どちらもきっとおなじみですね。

展覧会をより深く楽しむ予習にもなると思います。

 

 

弟、マルシャルが撮ったカイユボット

これはギュスターヴ・カイユボットの弟、マルシャルがパリで撮影したギュスターヴの写真です。

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《ギュスターヴと犬のべルジェール、カルーゼル広場》1892年2月  マルシャル・カイユボット ©Private Collection

 

この写真、なんだかとても気に入っています。広いカルーゼル広場に立つカイユボットと犬。とすると、後ろの建物はルーブル美術館ですね。遠近感のある考えられた構図の中、石畳の上のカイユボットと犬が引き立ちます。

ダンディなたたずまいのカイユボットが、カメラではなく愛犬(?)ベルジェールにふっと意識を向けた時に撮影したようなさりげない感じが素敵です。また、散歩している風の少し動きのある姿勢も自然。これが直立不動でカメラ視線だと、まただいぶ違う印象になりますね。別カットも撮ったのかな?マルシャルがどんなカメラを使っていたのか興味大です。

犬の名前もきちんと記されているところに、彼と関係の近い弟が撮影した感がしのばれるような?石畳の感じがなんとなく、カイユボットの絵画《パリの通り、雨》の石畳を思い起こさせます。

 

現在のカルーゼル広場はこんな感じ。 

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                                                                 © Mayumi Ishii

後ろの建物はルーブル美術館です。19世紀の当時は噴水もピラミッドもありませんでしたが、カイユボット兄弟はこの界隈を歩いていたのですね。

 

カイユボットには弟が二人いました。その一人ルネは、カイユボットの作品《昼食》に描かれています。しかし、20代の若さで亡くなってしまいました。もう一人の弟、マルシャル(1853-1910)は末っ子で、カイユボットの《ピアノを弾く若い男》などのモデルとして描かれています。

 

マルシャルは音楽家、切手収集家で、また写真家でもありました。カイユボットと仲が良く、パリで一緒に住んでいた時期もあります。兄弟で共通の趣味を持ち、切手収集やヨットも二人の楽しみだったようです。アート活動としては、カイユボットは絵画、マルシャルは写真で、変わりゆくパリの姿をとらえました。二人が同じような場所を題材にした作品もあります。また、マルシャルも印象派の画家達と交流があり、ルノワールがマルシャルの娘を描いた絵画が残っています。

 

カイユボットがマルシャルを描いた一方、マルシャルも上の写真のように、カイユボットのポートレート写真をいろいろ撮りました。2011年にはパリのジャックマール=アンドレ美術館で「カイユボット兄弟 画家と写真家展」が開催され、カイユボットの絵画とマルシャルの写真が展示されたそうですよ。

 

今回のブリヂストン美術館の「カイユボット展」にはマルシャルの写真作品も約80点展示される予定なので、楽しみです!

 

 

雑誌「おとなのぴあ」と「ミセス」に掲載されました。

 

カイユボットについての記事が掲載された雑誌が発売になったのでお知らせです。

 

おとなのぴあ 2013秋-2014春 首都圏 

大特集  絶対見るべき美術展 完全案内

「知られざる重要人物 カイユボットの真実と「遺贈事件」」

ー「カイユボット展 都市の印象派ブリヂストン美術館

 

ミセス2013年 10月号

「画家に導かれて旅するパリ カイユボット、ルオー」

 

どちらも、カイユボットの作品とともに、たっぷり紹介されています。10月からのカイユボット展の予習として読むのもいいですね!

 

オルセーの学芸員さんが語るカイユボット 〜パリ8区を描く

パリのオルセー美術館には、カイユボットの作品が5点あります。前回のブログで紹介した《床削り》もその中の一点です。オルセーに取材に行った時は、この作品も展示してありました。

 

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                                                                       撮影: © Mayumi Ishii

  《アンリ・コルディエの肖像》1883年  

アンリ・コルディエ(1849-1925)はフランス人の東洋学者。カイユボットと1歳違いの友人だったようです。後ろ姿をさりげなくスケッチした風のポートレート。よく見ると、左ひじの位置に比べて机の高さがちょっと不自然?

 

オルセーでは、美術館の19世紀フランス絵画担当学芸員であり、カイユボットの研究をしているグザヴィエ・レイさんに話を聞きました。

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 《床削り》とオルセー美術館、19世紀フランス絵画担当学芸員のグザヴィエ・レイさん

 

カイユボットについて「革新的な目を持つ画家」と評するレイさんは、カイユボットは独学で絵を学んだので、ほかの画家に比べ、西洋絵画の伝統に縛られない作風だったのでは言います。

 

カイユボットはパリで一番モダンな8地区を描いた

 

 ― 19世紀はパリの都市文化が花開いて、画家も都市を描きましたが、カイユボットのように8区だけを集中的に描いた画家は珍しいのではないでしょうか?

 

レイさん「印象派の画家たちは新しい描き方を生み出しましたが、テーマも新しくなくてはならなかった。ですから、みな新しいテーマを競うように探していたのです。ドガはオペラ座のバレエの舞台、モネはサン=ラザール駅を描きました。当時のナポレオン三世の時代には、どんどんパリの道を壊して新しく、という形で近代化が進みましたが、その具現化が最も顕著に見られた場所が8区でした。8区は一番モダンな界隈だったわけで、それを選んだカイユボットは一番モダンな画家であったと言えると思います」。

 

パリ8区は、カイユボットが若い頃に住んでいた地区でもあります。このブログでも紹介した《ヨーロッパ橋》や《パリの通り、雨》をはじめ、《ペピニエール兵舎》も8区が被写体です。

 

また、自宅の室内で描いたとされる下記の作品などもことごとく8区です。後に彼が引っ越して住んだ家も、オペラ座の裏手、8区隣の9区でした。カイユボットが「都市の印象派」と呼ばれるのはそのせいでもあるのですね。

 

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《ピアノを弾く若い男》1876年 石橋財団ブリヂストン美術館

モデルはカイユボットの弟のマルシャル。第2回印象派展に出品して注目された作品です。壁や床の装飾模様、カーテンなどのディテールのほか、光沢、ピアノに写る手や部屋の反射など、光の作用に敏感=写真家的な目だなと思うのです。

 

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《昼食》1876年 個人蔵 (c)Private Collection

カイユボットの母と弟ルネの食事風景。執事がいる雰囲気や調度品からカイユボットの豊かな暮らしぶりがうかがえると評されている作品。ガラスの器がたくさん描かれていることが気になります。きっとカイユボットは、逆光を受けたガラスの質感の面白さに魅かれたのではないかな?

上記2作品は、ブリヂストン美術館のカイユボット展に展示される予定なので、じっくりと鑑賞するチャンスです。

 

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 パリ8区、メロメニル通り77番地に今も残るカイユボットの家。事業で財をなした父親が建てた丸ごと一軒。ここの室内で上記の絵が描かれたと思うと感慨深いです。

 

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 カイユボットが住んでいたことを示す石盤が建物の外壁に

 

 ―カイユボットの作品には写真風な構図のものも残されていますが、例えば、写真を見ながら描いたのではないかというような資料は残っていますか?

 

レイさん「写真は残っていません。彼には写真的な視点がありましたが、何かモデルとなる写真を見て描いたということはないと思います」。

 

―カイユボット自身も写真を撮っていたと思いますか?

 

レイさん「弟がカメラを持っていましたから、カイユボットも写真を撮ったと思います。でも、覚えておきたいのは、彼は写真家にならず、画家のままだったことです」。

 

カイユボットの弟、マルシャル・カイユボットはパリの写真を撮っていた人で、現在、写真家としての評価も進んでいるそうです。兄弟で芸術的に影響を与え合ったのではと察せられますが、ブリヂストン美術館の回顧展では、マルシャルの写真作品も展示される予定なので楽しみです。

 

レイさんもほかのファンと同じように、カイユボットの革新的でモダンな視点、作風を愛しているようでした。レイさんの詳しいインタビューは、ブリヂストン美術館のカイユボット展オフィシャルサイトに今後アップされる予定ですので、チェックしてみて下さいね。

ブリヂストン美術館のカイユボット展オフィシャルサイト

 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/caillebotte/

 

「床削り」

8月19日はカイユボットの誕生日でした。獅子座ですね。

1848年パリ生まれで1894年没。若くして亡くなったせいか彼が描いた絵の数は、同世代のモネなどに比べると少ないのですが、印象的な絵をたくさん残していて、それまでカイユボットを知らなくても、知るとその味わい深さにはまる人が多い気がします。

 

パリでは、オルセー美術館も取材してきました。オルセーはカイユボットの作品を5点所蔵しています。

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近代パリ絵画のセクション。ちなみに右のブルーの壁にあるのはルノワールの「ムーランド・ラ・ギャレット」(1876年)。これは、カイユボットが、友人だったルノワールから購入して所有していた作品で、後にフランス政府に寄贈したものです。

 

カイユボットは自分の絵の制作以外に、モネやルノワール、ドガなど印象派画家の作品を多数買い、また、印象派展を開くための資金を提供したりして、彼らの活動を支援していました。現在、フランスにまとまった数の印象派の絵画があるのはカイユボットのおかげともいえるのです。それについてはまた書きますね。左から3番目と6番目がカイユボットの作品です。 

 

カイユボットの作品「床削り」(1875年)。

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 1876年にパリで開催された第2回印象派展に、カイユボットが初めて出品した作品です。彼は27歳でした。絵の題材の場所は、彼のパリの自宅ではといわれているそうです。この絵もとても写真的な感じです。整った構図だけでなく、題材を選ぶ選択眼、そして観察眼が。

 

ドガはバレリーナ、ルノワールは美人画など、彼らも人物像を多く描いていますが、カイユボットは、特別な人ではなく素朴な人々の中にも美を見い出している感じがします。しかもポーズを取らせるわけでもなく、働いている場面の自然な描写。そのあたりが同時代のほかの画家とひと味違います。

 

三人の男性の上半身のムーブメント、床に散らばる削りかす、窓から差し込み室内を満たす光。青年カイユボットはきっと、自宅でその光景を見て、絵になると思って描いたのでしょうか。それは、日々の中で目に入ったものに心が動いて、カメラのシャッターを押す感覚に、どことなく似ているような気がします。

 

じっと見るとディテールが面白い。

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手に何か道具を持っています。ハサミのようにも見えますが何だろう。光が床に反射したほのかな光沢。

  

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 隣の人と何か話している風の表情。後ろには彼らの荷物?ワインボトルが置いてあり、のんびりと仕事をしているようにも見えますね。 

  

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 頭頂部の髪がちょっと薄い彼は左手に指輪をしています。床に置かれた金槌の質感、くるくるの削りかす。

 

f:id:Caillebotte:20130629021927j:plain カイユボットのサイン。

 このように労働者の人々を描くことは、当時のフランス絵画では非常に斬新だったのだそうです。ブルジョア階級にいたカイユボットですが、彼の目は階級に境界線を引かず、対象物をフラットに見ていたような気がして、そういう視点やセンスがとても面白く、また魅力的だなと思いました。

 

ここで、オルセー美術館の学芸員さん登場。カイユボットやその時代についての研究者でもあるグザヴィエ・レイ氏にお話を聞いてきました。それについては次回書きますね。乞うご期待!

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(10月10日からブリヂストン美術館で開催される「カイユボット展―都市の印象派」に「床削り」は出品されません)