ブリヂストン美術館 カイユボット展ブログ

~写真家Mの視点によるカイユボットの魅力~

カイユボット展が終了しました。

10月10日にオープンした「カイユボット展 都市の印象派」が、12月29日にとうとう最終日を迎えて終了しました。

最後の日に駆け込みで行った方も多かったようですね。私も終わる前にもう一度観たいと思い、29日の朝にブリヂストン美術館に行ったところ、開場前の時間から行列ができていて大盛況の様子でした。

会場で順番に沿ってひと通り見た後、特に好きな作品たちを一つ一つ鑑賞し、個人蔵の作品は特にじっくり見てきました。パリを描いた作品は都市らしいおさえたグレー、ブルーのトーン、イエールなど屋外ではみずみずしい色彩の作品と、印象深いカイユボット的色彩をあらためて感じました。そして、写真を撮るような目で被写体を切り取りつつ、絵画ならではの自由な展開をする構図。

これまで日本ではあまり知られていなかったギュスターヴ・カイユボットの画家としての魅力が充分に伝わった展覧会だったと思います。以前からのカイユボットファンに加えて、新たなファン(私を含め!)がたくさん増えたのではないでしょうか。

また、印象派の画家たちを支えた知られざる重要人物としてのカイユボットについてもいろいろ紹介されましたね。印象派展を開く資金を援助したり、ルノワール、モネ、ドガなどの作品をたくさん購入して、遺言でフランスに寄付したり、モネに何度もお金を貸してあげたり、額縁を買ってあげたりなどなど。印象派の時代の舞台裏などがわかって非常に興味深かったです。

それらについてはカイユボット展のカタログに詳細に載っているのでおすすめですが、展覧会の後もきっと購入できるでしょうか?各作品についての解説はもとより、ブリヂストン美術館の島田紀夫館長さん執筆による解説「印象派グループ展のなかのカイユボットの位置 ー ルノワールへの信頼、モネとの友情、そしてドガとの確執」、そして、カイユボットの活動や印象派画家たちとのやりとりなどが書かれている年譜が詳しくてとても面白いです。

展覧会でゆっくり鑑賞した後、去るのが名残り惜しかったですが最後に、カメラ目線(?)ばっちりのカイユボットの自画像作品の前に行き「またお会いしたいですね」とあいさつして帰りました。作品はそれぞれの所蔵主の元に帰って行きますが、お気に入りの一つだった《ピアノを弾く若い男》の作品はブリヂストン美術館蔵なので、また目にしやすいかも、と密かに楽しみにしています。

帰り際、ミュージアムショプでマウスパッドを見つけて買いました。中に絵はがきサイズのものを入れられるすぐれもの。さっそく、カイユボットの弟マルシャルが撮影した《カイユボットと犬のベルジェール、カルーゼル広場、1892年2月》の絵はがきを入れてみましたよ♪ 

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photo: ©Mayumi Ishii

このブログにもおつきあいいただきありがとうございました。ご縁があって担当させていただきました写真家の石井真弓でした。展覧会の前からスタートし、パリでカイユボットの足跡を追う取材やそして実際の絵画作品などを通して、カイユボットの画家としての魅力に加え、人間としても興味を持ちました。ブログにはあのことをもっと書けば良かったな、などなど反省点もありますが、少しは楽しんでいただけていたらと思います。

カイユボット展が終わり、2013年も終わっていきます。みなさまどうぞ良い新年をお迎えください!

カイユボットが眠る場所

 カイユボットは、1894年の2月21日に45才の若さで急逝しました。プティ・ジュヌヴィリエの庭で倒れ、回復できなかったようです。彼の弟ルネも20代の若さで亡くなっていたことから自分の健康を心配してか、カイユボットは早いうちから、自分がコレクションしていたルノワールやモネ、セザンヌ、ドガなどの絵画作品をルーヴル美術館に寄贈するという遺書を準備したともいわれています。

 

カイユボットの葬儀はパリ9区にあるノートルダム・ド・ロレット教会で行われました。あまりに多くの人が葬儀に参列したため、中に入りきれなかったといいます。画家であり、ヨット競技者兼設計者、パリ郊外の町プティ・ジュヌヴィリエの町議会議員印象派画家の支援者だったカイユボットは、きっとたくさんの人から慕われる魅力的な人柄だったのでしょうか。

 

葬儀後の3月初め、画家ピサロが息子に宛てて「私たちはまたひとり、誠実で献身的な友人、カイユボットを失った。彼は突然の脳性麻痺で亡くなった。善良で気前がよく、才能ある画家だった」(カイユボット展カタログより)という手紙を書いたそうです。遺言執行人となったのは、友人のルノワールでした。

 

今年、カイユボットの足跡を追ってパリに取材に行った時、彼が眠っている墓地も訪ねました。カイユボットはパリ最大の墓地ペール・ラシェーズに埋葬されています。19世紀の初頭にできたこの墓地には世界的著名人のお墓が集まり、ドラクロワモディリアーニなどの画家のほか、作曲家のショパン、作家オスカー・ワイルド、現代に近い人ではマリア・カラス、俳優イヴ・モンタン、また歌手ジム・モリソンなどのお墓もあります。カイユボットの友人ピサロもここに埋葬されました。

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ペール・ラシェーズは丘状になった広大な敷地で、入る前に園内地図をよく見る事が必須。地図を見ても迷ってしまいそうなほど広く、入り組んでいます。

 

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門近くの地図を見るとカイユボットのお墓には70区の100番という番号がついていました。正面の門から入り、左手のほう。墓地が想像以上に広くて、行きつくまでにかなり歩いた気が。カイユボットのお墓は坂になった場所あり、ひさし屋根のついた石造りの家型のお墓が、すっと上品な感じで立っていました。

 

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お墓にはカイユボットの自画像のコピーが掲げられていました。誰が飾ったのかな?彼に敬意を表して、私たちはドアの外に花束を置いてきました。

内部はよく見えなかったものの、小さなステンドグラスが外からの光を透して美しく輝いていましたよ。

この自画像のオリジナルが現在、ブリヂストン美術館に展示されています。しっかりカメラ目線(?)のこの絵に会いに行くなら最終日の29日までに!

 photos: ©Mayumi Ishii

 

味わい深い人物像たち

12月に入り、「カイユボット展 ー 都市の印象派」の最終日29日が近づいてきました。前にも書きましたが、カイユボットの作品はパリのオルセー美術館やマルモッタン・モネ美術館などに数点所蔵されているものの、ほかの多くは個人蔵です。なので、通常は一般公開されておらず、今回のようにたくさんの作品が集まっている展覧会は本当に貴重。ぜひお見逃しなく!と声を大にして言いたいです。私は2回見に行きましたが最終日までにできればもう一度観賞したいところ。

 

カイユボットの作品は遠近感のある構図の強さが魅力ですが、描かれた人物が持つたたずまいも非常に味わいがあります。人物像を描くにしても、ルノワールの作品のように微笑んだ人物ではなく、その時の表情をすくい取ったような横顔を描いているものが多いですよね。性格までうかがえそうな。《昼食》ではカイユボットのもう一人の弟ルネがプレートの肉(?)をナイフで切るのに集中している表情。これは素描(カイユボット展のカタログに掲載)では、ルネがプレートの上に本をかかげて読書している図だったのも興味深いのですが。《室内ー読む女性》は新聞に集中している表情、《編み物をするボワシエール夫人》は編み物。《アンリ・コルディエ》は書き物に集中しているまなざし。どれも、日常の人の行為を観察しながらスナップ写真を撮ったかのような雰囲気にあふれていて面白いです。そこに彼の美的視点での色使いや構図などを加え、写真とは違う、彼ならではの絵画になっているんですね。《室内ー読む女性》の絵では、奥で寝そべっている男性がソファのサイズに比べてどうしてあんなに小さいのでしょう!?

 

そんな人物画の題材として「マグロワール親父」という人を描いた作品が2点ありました。

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《樹木の下で横たわるマグロワール親父》1884年(アソシアシオン・デ・ザミ・デュ・プティ・パレ、ジュネーヴ蔵)

 

マグロワール親父は、カイユボットが時々訪れていたノルマンディー地方にいたマグロワール・ローワンという庭師とのこと。どちらの絵もブルーの作業用風の服を着たカジュアルな雰囲気で、1点は日の当たる木立の下でうたた寝をしている絵。やはりスナップ風です。もう1点は、なんとなくずんぐりとした体型、歩きぶり、手の所作の感じなどからマグロワール親父さんのキャラクターが浮かんでくる味わいある作品です。また、木立の影にカイユボットらしいパープル気味の色が使われていたり、秋らしい草むらの色使いなどがまさにカイユボット風印象派スタイル。これから見に行く方はマグロワール親父もぜひお見逃しなく!

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 《サン=クレールからエトルタへの道を行くマグロワール親父》1884年 (アソシアシオン・デ・ザミ・デュ・プティ・パレ、ジュネーヴ蔵)

カイユボット展オリジナルチョコレート♪

こんにちは、カイユボット展広報事務局スタッフです。

今日はクリスマスですが、皆様どのように過ごされますか?ブリヂストン美術館でパリの風を感じる「カイユボット展」鑑賞も素敵ですよ!

 

館内にはミュージアムショップもあって、クリスマスにちょっとしたプレゼントを用意したい、という方にもピッタリのグッズが色々あります。

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その中からスイートなカイユボット展オリジナルチョコレートをご紹介します。

東京・中目黒のフランス洋菓子店「パティスリー カカオエット パリ」から、

本展に合わせた限定のチョコレートです♪

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 ラ トゥール エッフェル】 1,600円

カイユボットの時代からパリのシンボル・エッフェル塔を模った、甘くて上品なチョコレート。本展オリジナルカードも付いて、クリスマスプレゼントにぴったりです。

 

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 【アマンド カカオ】 1,260円 (写真下)

 

大粒のアーモンドと上品なカカオを使った、フランス製アーモンドチョコレートです。素敵なエッフェル塔チャームとオリジナルカードも付いています。

 

今回このチョコレートを作ってくださった「パティスリー カカオエット パリ」は、フランス人のオーナーシェフであるジェローム・ケネルさんと、製造責任者の椛沢貴子さんが、2006年12月に開業したフランス洋菓子店です。

http://www.cacahouete-paris.jp

 

スタイリッシュなインテリアが素敵です!

店内には「シンプルで美しくおいしい」、そして「モダンな表現で魅せる」宝石のようなフランス菓子が揃っているそうです。まさに、カイユボットの世界観にぴったりですね!

みなさま、素敵なクリスマスをお過ごしください!

 

 

 

 

「日曜美術館」で放送

「カイユボット展―都市の印象派」が、NHK「日曜美術館」で紹介されました。

今週の日曜日に再放送がありますので、まだご覧になってない方は

是非チェックしてみてください。

 

http://www.nhk.or.jp/nichibi/

【再放送】
12月15日(日) 午後 8:00~9:00
変貌するパリを描く
ギュスターヴ・カイユボット

カイユボットが生きていたころのパリの様子が紹介されたり、

新たなカイユボット像に迫ったり、と、たっぷりとカイユボットワールドに

浸っていただけると思います!

 

(広報事務局)

 

 

プティ・ジュヌヴィリエのカイユボット

「カイユボット展」の絵の中で、ヒマワリが印象的な大きな絵があります。

 

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《向日葵、プティ・ジュヌヴィリエの庭》

 

花にかかる影の雰囲気などがリアルで、ちょっと遠くから見ると写真のようにも見える絵です。ヒマワリの後ろに描かれているのは、カイユボットが郊外プティ・ジュヌヴィリエに買った彼の邸宅です。彼はここに1888年から住んでいました。

 

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今年、カイユボットの足跡を追ってパリに行った時、郊外のプティ・ジュヌヴィリエにも行ってきました。現在も当時と同時代のものと思われる家が一部だけ残っています。このジュヌヴィリエには、印象派の画家仲間のマネの一族も先祖代々住んでいたそうです。セーヌ川をはさんで、対岸はアルジャントゥイユ。そこにはモネが住んでいました。モネはマネとも友人だったので、アルジャントゥイユに家を探してもらったそうです。彼らは川を行き来して、カイユボットの家にも遊びに行ったことでしょうね。まさに印象派の画家たちの故郷のような場所です。

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左がプティ・ジュヌヴィリエ岸で右がアルジャントゥイユ岸。

 

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カイユボットは後年、ヨットレースに夢中になり、自分で設計するほどの熱の入れようだったのですが、ここにヨットの造船所があり、ヨットレースが行われていたとか。川には、カイユボットが描いた橋もしっかり残っていました。その橋の上に立つと、アルジャントゥイユ、プティ・ジュヌヴィリエ両方の街が一望できます。カイユボットやモネたちはこの橋をきっと行き来していたんだろうなと思うと感慨深かったです。また、約3年前には、川に浮かべてある船の上で、マルシャルが作曲した曲を演奏する音楽会が開催されたそうです。

 

プティ・ジュヌヴィリエ市の市役所に勤めるゴネリー・リブーバンさんに会ってカイユボットについての話を聞いてきました。カイユボットは、プティ・ジュヌヴィリエで絵を描いたりヨットレースにいそしんでいたばかりではなく、1888年から1893年までプティ・ジュヌヴィリエ市の議員も務めていたそうです。鉄道などの技術部門やお祭りなどの祭事を担当していました。

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(現在のプティ・ジュヌヴィリエ)

 

市に勤務している間、カイユボットはなんと、市の道路工事の資金を個人的に出してあげたりしたとか。それがきっかけで自動車産業が発展し、外国人の移民が増えたそうです。彼が援助したのは、印象派の画家だけじゃなかったんですね。フィランソロフィック(篤志的)というか、社会や文化に対して利他的な心がある人だったんだろうなとつくづく思います。現代で似たような人を探すとしたら、さて誰でしょうね?

photos:©Mayumi Ishii

弟マルシャルが作曲した音楽を聴く

 カイユボット展には、弟マルシャルが撮影した写真も80点展示されていて、当時のパリのドキュメントとしても興味深いのですが、マルシャルは音楽家としても真剣に活動をしていたようです。

 

マルシャルはドビュッシーと同じ1873年頃にパリ音楽院(コンセルヴァトワール)に通っていて、同じ先生マルモンテルからピアノを学んでいたという記録があるそうです。音楽に打ち込んでいたそんなマルシャルの姿をカイユボットが描いた絵が《ピアノを弾く若い男》です。

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左の絵:《ピアノを弾く若い男》1876年/ブリヂストン美術館

 

カイユボット展の音声ガイドを利用すると、この絵の説明の時などにドビュッシーの音楽がBGMで流れるのですが、まさに同じ頃に生きていた作曲家の音楽だと知ると、一層感慨が深まりました。

 

会場には《ピアノを弾く若い男》に描かれているものと同じエラール社のピアノが展示されていて、製造年代もほぼ同じとのこと。そして11/26日、このピアノで演奏するコンサート「カイユボットとパリの音色」が開催されます。プログラムを見ると、カイユボットの作品にちなんだ同時代の音楽家ドビュッシーやサティの曲のほかに、マルシャルが作曲した曲も演奏される予定です。このピアノで奏でられる音楽はどんな音色なのでしょう。チケットはすでに完売で、私もこの日は残念ながら出席できないのですが、行かれる方はぜひご堪能下さいね。

 

でも、今回のコンサートに行けない方にも朗報。マルシャルが作曲した音楽のCDがフランスのレーベルから発売されているのを見つけました。

 

カイユボット:復活祭の荘厳ミサ曲(イル=ド=フランス・ヴィットリア地方合唱団/ピクマル)

CAILLEBOTTE, M.

Messe solenelle de Paques (Ile de France Vittoria, Piquemal)

 

ネットで一部試聴できるので聴いてみたところ、荘厳ミサ曲の重厚さをたたえつつも、絹のような柔らかな音色の印象がありました。

CDのカバージャケットはもちろん(?)《ピアノを弾く若い男》の絵です!

photos: ©Mayumi Ishii