ブリヂストン美術館 カイユボット展ブログ

~写真家Mの視点によるカイユボットの魅力~

「床削り」

8月19日はカイユボットの誕生日でした。獅子座ですね。

1848年パリ生まれで1894年没。若くして亡くなったせいか彼が描いた絵の数は、同世代のモネなどに比べると少ないのですが、印象的な絵をたくさん残していて、それまでカイユボットを知らなくても、知るとその味わい深さにはまる人が多い気がします。

 

パリでは、オルセー美術館も取材してきました。オルセーはカイユボットの作品を5点所蔵しています。

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近代パリ絵画のセクション。ちなみに右のブルーの壁にあるのはルノワールの「ムーランド・ラ・ギャレット」(1876年)。これは、カイユボットが、友人だったルノワールから購入して所有していた作品で、後にフランス政府に寄贈したものです。

 

カイユボットは自分の絵の制作以外に、モネやルノワール、ドガなど印象派画家の作品を多数買い、また、印象派展を開くための資金を提供したりして、彼らの活動を支援していました。現在、フランスにまとまった数の印象派の絵画があるのはカイユボットのおかげともいえるのです。それについてはまた書きますね。左から3番目と6番目がカイユボットの作品です。 

 

カイユボットの作品「床削り」(1875年)。

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 1876年にパリで開催された第2回印象派展に、カイユボットが初めて出品した作品です。彼は27歳でした。絵の題材の場所は、彼のパリの自宅ではといわれているそうです。この絵もとても写真的な感じです。整った構図だけでなく、題材を選ぶ選択眼、そして観察眼が。

 

ドガはバレリーナ、ルノワールは美人画など、彼らも人物像を多く描いていますが、カイユボットは、特別な人ではなく素朴な人々の中にも美を見い出している感じがします。しかもポーズを取らせるわけでもなく、働いている場面の自然な描写。そのあたりが同時代のほかの画家とひと味違います。

 

三人の男性の上半身のムーブメント、床に散らばる削りかす、窓から差し込み室内を満たす光。青年カイユボットはきっと、自宅でその光景を見て、絵になると思って描いたのでしょうか。それは、日々の中で目に入ったものに心が動いて、カメラのシャッターを押す感覚に、どことなく似ているような気がします。

 

じっと見るとディテールが面白い。

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手に何か道具を持っています。ハサミのようにも見えますが何だろう。光が床に反射したほのかな光沢。

  

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 隣の人と何か話している風の表情。後ろには彼らの荷物?ワインボトルが置いてあり、のんびりと仕事をしているようにも見えますね。 

  

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 頭頂部の髪がちょっと薄い彼は左手に指輪をしています。床に置かれた金槌の質感、くるくるの削りかす。

 

f:id:Caillebotte:20130629021927j:plain カイユボットのサイン。

 このように労働者の人々を描くことは、当時のフランス絵画では非常に斬新だったのだそうです。ブルジョア階級にいたカイユボットですが、彼の目は階級に境界線を引かず、対象物をフラットに見ていたような気がして、そういう視点やセンスがとても面白く、また魅力的だなと思いました。

 

ここで、オルセー美術館の学芸員さん登場。カイユボットやその時代についての研究者でもあるグザヴィエ・レイ氏にお話を聞いてきました。それについては次回書きますね。乞うご期待!

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(10月10日からブリヂストン美術館で開催される「カイユボット展―都市の印象派」に「床削り」は出品されません)