ブリヂストン美術館 カイユボット展ブログ

~写真家Mの視点によるカイユボットの魅力~

広角レンズ24mm!「ヨーロッパ橋」

カイユボットの作品は「都市の印象派」と呼ばれています。

 

たしかにモネやルノワールなどに比べて、彼の作品には、パリの街や人々を描いたものが多い気がします。描いた場所は、現在でも地名をはっきり特定できるものもあり、そのいくつかを訪問してきました。

 

まずは、彼の代表作の一つでもある「ヨーロッパ橋」。

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 《ヨーロッパ橋》1876年、ジュネーヴ・プティ・パレ美術館蔵 (c)Association des amis du Petit Palais, Genève 

 

この絵を初めて見た時に、24mmぐらいの広角レンズで撮影したような構図だなと思いました。奥に続く橋の強いライン、そして奥行き。左の男性の顔のあたりが構図のVanishing point(消点)ですね。

 

広角レンズは、風景の中でのアクションを上手くとらえやすい特徴があります。絵の中の散歩するカップルもそうですが、歩いていく犬がまさにそんな感じ。犬が歩くリズムや尻尾が揺れているような気配さえ感じます。しっかりと影まで描き、この地理の方角的に考えると、遅い午前中のよう。日常を切り取ったような視点が大変に面白いです。じーっと見ているとだんだん写真のように見えてくるのは私だけでしょうか。

 

この場所がパリに今も残っているというのでさっそく訪れて写真を撮ってみました。f:id:Caillebotte:20130628170118j:plain

ヨーロッパ橋のある位置は、サンラザール駅に向う線路の上にかかるウィーン通りです。当時、橋はきっと新しかったことでしょう。現在、橋の上の部分が違うデザインになっていますが。歩道は今も同じぐらいの幅があり、絵の奥にある建物も昔とほぼ同じような形で残っているのが興味深いです。

 

カイユボットの時代は、今のようないわゆる35ミリの一眼レフカメラはまだ登場していなかったのですが、カメラを通してのぞいてみると、やっぱり24mmレンズに収まる構図が浮かんできました。

 

続いては「パリの通り、雨」(エスキス)。

f:id:Caillebotte:20130622175747j:plain 《パリの通り、雨(エスキス)》1877年、マルモッタン・モネ美術館蔵 (c)Musée Marmottan Monet, Paris, France / Giraudon / The Bridgeman Art Library

 

これも写真で撮ってみました。

ここはダブリン広場に向ってトリノ通りを南から北へ見る光景です。石畳はもうないものの、当時の建物が残っていますね。

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この場所に来る前に、マルモッタン美術館で実物の絵を見た時、きっと道路が坂道になっているのでは?と思っていたところ、現地に行ったらやはり手前から奥へ上る形のゆるい坂道になっていました。これも広角レンズアングルですね。取材の時にお世話になったパリ在住のジャーナリスト南陽一浩さんにモデルになっていただきました。南陽さん、ありがとうございました!

 

写真を撮っていると、隣にあるカフェからちょうど出てきた女性(写真右)が「カイユボットの絵の写真を撮っているんでしょう?」と南陽さんに話しかけてきました。なんと彼女は「パリの通り、雨」の絵のレプリカポスターを持っていて、自宅の家に飾っているのだそうです。私たちが撮影を始めたので、すぐにピンと来たとか。カイユボットが絵を描いたその場所で思わぬ交流ができた楽しいひとときでした。

 

上の2点の絵画作品はどちらも10月からのカイユボット回顧展で実物を見ることができる予定だそうです。

 

ところで、カイユボットが生まれた1848年は、ナポレオン3世が選挙で大統領に当選した年です。その後、ナポレオン3世は皇帝に即位し、パリの大改造に着手。オスマン通りを始めとする大通りを新しく敷設したり、古い建物を潔く取り壊して大規模に都市整備をしたりと、現在のパリのおよその形を作ったそうな。カイユボットは町の近代化が進む変化の時代の渦中にいて、日々、動いていくパリの姿を見ていたのですね。

 

時代の過渡期にある街というものは、写真家にとっては大変に魅力のある被写体です。私がカイユボットをとても面白いと思ったのは、彼が絵画でそんな時代をスナップして切り取ったような作品を残していることです。マルモッタン美術館とオルセー美術館を訪問して彼の絵の前に立ち、その思いを強くしました。時代を見て、切り取る目を持っている人だったのかなと。次回はそういう作品について書こうと思います。